恐怖の城壁を築いた民たち
- 奧村 哲次
- 5月12日
- 読了時間: 4分
恐怖に縛られ、変化を拒んだグレイ王国。
若者たちは未来を信じて旅立ち、王国は静かに滅びへ向かう──。
私たちは、恐怖の城壁を築く側ではなく、未来を拓く側に立てるだろうか。
この物語はフィクションです。
第一章：繁栄の時代
かつて、グレイ王国は豊かな国だった。
風が吹き、民は歌い、外の世界と交易しながら繁栄を築いていた。
第二章：魔法との出会い
だが、ある年、外の国々で「魔法」が生まれた。
文字を覚えなくても知識を操り、声を紡ぐだけで新しい知恵を得ることができる、そんな不思議な力。
それは未来そのものだった。
若き技術者リオは、興奮を隠せなかった。
「これを使えば、我々はもっと高く飛べる！」
「病も、飢えも、争いさえも減らせる！」
第三章：恐怖の城壁
だが、王国を支配する長老会議、議長デランは、眉をひそめた。
「外の魔法など、恐ろしい。もし、間違って使えばどうする？
失敗すれば、王国が滅びるのだ。」
こうして、王国は「恐怖の城壁」を築くことを決めた。
外からの魔法も技術も、一切受け入れない。
国を囲む巨大な壁。
それは「守るため」ではなく、「怯えるため」に作られた。
民たちはそれに従った。
リスクを恐れ、何も変えず、何も失わないために。
彼らはいつしか、「無風の牢獄」に生きることを選んだのだった。
第四章：取り残される王国
時は流れた。
外の国々は、魔法を自在に使いこなし、空を飛び、海を渡り、星をも手に入れようとしていた。
一方、グレイ王国は、かつての豊かさを失い、荒れた畑と錆びた道具だけが残った。
リオたち若者は叫んだ。
「このままでは、国が死ぬ！」
「恐れて何もしないことこそ、最大のリスクだ！」
だが長老たちは壁の上から睨みつけた。
「口を慎め。
我々は、"死なないために生きる"民なのだ。」
リオは、仲間たちと共に、静かに国を去った。
新たな地で魔法を学び、新たな文明を築くために。
第五章：静かなる滅び
さらに幾年月が流れた。
グレイ王国は、外から来る者もいなくなり、
民も老い、希望を語る者もいなくなった。
かつて議長だったデランは、
誰もいない玉座に、独り座っていた。
彼の目の前には、崩れかけた城壁。
誰も守らなかった牢獄。
乾いた風だけが、かつての歌を嘲笑うように吹き抜けていた。
デランはつぶやいた。
「……我々は、
死なないために生き、
そして、生きながら死んでいったのだな。」
その声は、誰にも届かず、
無風の牢獄の空へと消えていった。
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