無人島のビジネスマン
- 奧村 哲次
- 9 時間前
- 読了時間: 3分
第一章：流れ着いた島
ある日、一人の男が、荒波にもまれながら辿り着いた島。
そこはかつて文明があったが、今は自然の中で静かに暮らす人々の共同体だった。
貨幣も、契約もない。
互いを助け合い、支え合うことで生きている島だった。
だが男は、スーツにネクタイといういで立ちのまま、
砂浜に立つと、最初にこう叫んだ。
「私のサービスを使ってください！」
「まずは私と打合せを！」
島の人々は顔を見合わせた。
誰一人、この男のことを知らない。
誰一人、"商談"という言葉の意味すら知らなかった。
第二章：交わらぬ心
島の人々は、男に水を差し出した。
果物を分け合い、焚き火に招いた。
だが男は、受け取るよりも先に、スケジュール帳を取り出した。
「まず、商談日程を決めましょう！」
「ご相談料は今なら無料です！」
島の人々は静かに首を振った。
この島では、「与え合う」ことが自然だった。
取引ではなく、共に生きることが当然だった。
次第に、島の人々は、男を遠巻きに見るようになった。
第三章：孤独と焦り
日が経つにつれ、男は焦った。
誰も自分に興味を持たない。
誰も打合せを申し込まない。
「なぜ誰も、俺のサービスを求めないんだ！」
「こんなに役立つ提案なのに！」
だが島の人々は、
名前すら知らない男と、心を交わすことはなかった。
島の片隅に、男は一人テントを建てた。
そこに「無料相談受付中」と書いたチラシを並べ、
来るはずのない客を待ち続けた。
第四章：最後の夜
ある夜、男は星空の下で叫んだ。
「誰も、俺を理解しようとしない！」
「誰も、俺の素晴らしさを分かってくれない！」
だが、返ってきたのは、ただ静かな波の音だけだった。
その夜、島の住人たちは、焚き火を囲み、
互いのことを語り、
静かに笑い合っていた。
男の名を呼ぶ声は、どこにもなかった。
ビジネス的考察
この物語は、現代のLinkedIn営業や法人営業メールの縮図です。
相手を知ろうとせず、まず"売ろう"とする人間は、誰からも信頼されない。
自己都合だけで動く人間は、共感も、協力も得られない。
現代ビジネスは「共感と信頼」こそがスタートラインです。
売りたいなら、まず知ること。
伝えたいなら、まず聞くこと。
それを忘れた営業は、孤独な叫びにしかならない。