Chapter 2 企画・提案
期待値を壊さないために最初に決めること

ITプロジェクトにおける失敗の多くは、
開発中やリリース後に起きているように見えます。
しかし実際には、
企画・提案の段階で、すでに期待値は壊れ始めています。
この章では、
「なぜプロジェクトは炎上するのか」ではなく、
「どこで期待値が壊れたのか」
を一つずつ分解していきます。
2-1. 理想像が言語化されないまま進む
企画の初期段階で、
次のような言葉がよく使われます。
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「業務を効率化したい」
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「DXを進めたい」
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「使いやすいシステムにしたい」
これらは 理想 ではありますが、
要件でもゴールでもありません。
理想像が言語化されないまま進むと、
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人によって完成イメージが違う
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評価基準が存在しない
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成功か失敗かが判断できない
という状態になります。
「何をもって成功とするか」
これが言語化されていない企画は、
必ず途中で期待値が崩れます。
2-2. 前提条件が共有されていない
多くの提案では、
「できること」だけが語られます。
しかし、現実のプロジェクトには
必ず制約があります。
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既存業務のやり方
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現場のITリテラシー
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実際に触る人の人数やスキル
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使える時間と使えない時間
これらの 前提条件が共有されないまま
提案が進むと、次のズレが起きます。
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ベンダーは「使える前提」
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現場は「そんな余裕はない」
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経営は「すぐ成果が出ると思っていた」
期待値は、
前提条件が共有されなかった瞬間からズレ始めます。
2-3. 前提条件が共有されていない
提案書には、
魅力的な機能や将来像が並びます。
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機能一覧
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技術構成
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拡張可能性
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他社事例
しかし多くの場合、
「できないこと」「やらないこと」 が書かれていません。
結果として、
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書いていないこともやってくれると思われる
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暗黙の期待が膨らむ
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「それも含まれていると思っていた」という言葉が出る
これは悪意ではありません。
構造の問題です。
提案とは、
「夢を語ること」ではなく、
「範囲を区切ること」 です。
2-4. スケジュールが希望ベースで決まる
企画・提案段階では、
スケジュールが次のように決まることがあります。
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「このイベントまでに」
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「年度内に何とか」
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「できればこの日までに」
これは判断ではなく、
希望や願望です。
スケジュールが希望ベースで決まると、
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無理が現場に押し付けられる
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品質か安全性が犠牲になる
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トラブル時に誰も責任を取らない
本来、スケジュールは
コスト・品質・リスクとのトレードオフで
判断されるべきものです。
それが行われていない場合、
期待値は必ず壊れます。
2-5. 責任の所在が曖昧なまま合意する
企画・提案フェーズでは、
次のような言葉が使われがちです。
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「一緒に進めましょう」
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「協力しながらやりましょう」
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「柔軟に対応しましょう」
一見すると前向きですが、
責任の所在を曖昧にする言葉でもあります。
合意とは、
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誰が決めるのか
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誰が責任を持つのか
-
何が起きたら誰が判断するのか
これが明確になって初めて成立します。
責任なき合意は、
後で必ず期待値を破壊します。
2-6. 契約が「信頼関係」で締結される
企画・提案の最後に、
次のような空気が流れることがあります。
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「細かいところは後で」
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「信頼しているから」
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「長い付き合いだから」
しかし契約とは、
信頼を前提にするものではありません。
信頼が揺らいだ時のために存在するものです。
期待値を文章に落とさず、
関係性だけで契約した場合、
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解釈の違いが起きる
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トラブル時に感情論になる
-
「話が違う」という言葉が出る
これは避けられません。
2-7. この章のまとめ
期待値は、
勝手に壊れるものではありません。
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言語化されなかったとき
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前提が共有されなかったとき
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判断が曖昧だったとき
設計されなかった瞬間に壊れます。
企画・提案フェーズでやるべきことは、
期待値を上げることではありません。
期待値を正しく整えることです。
プロジェクトを成功させるとは、
期待を煽ることではなく、
失望を生まない設計をすることです。
次章では、
この期待値を壊さないまま
要件定義をどう設計するかを扱います。





