企業型SaaS AIエージェントの作り方
なぜLLMOではなく、AIOから始めるのか

企業のAIエージェントを作るなら、まずLLMOに取り組むべきだ。
そう考えている人は少なくないかもしれない。しかし私は、順番が違うと思っている。
LLMOは、ChatGPTやGeminiなどの外部AIに、自社を見つけてもらい、紹介してもらうための施策だ。Web上の情報を整え、AIからの引用や紹介につなげる。その役割には価値がある。
ただし、ここに大きな落とし穴がある。
外部AIが見つけた企業情報と、企業自身が本当に大切にしていることは、同じとは限らない。
検索で見つかりやすい情報は、企業の思想や哲学を正確に表しているとは限らない。古い記事かもしれない。第三者の解釈かもしれない。見栄えを優先して書かれた宣伝文句かもしれない。そもそも正しいかどうか、企業自身が確認していない情報かもしれない。
その情報をもとに、企業の代わりに判断し、行動するAIエージェントを作ってよいのだろうか。
私は、そこから始めてはいけないと考えている。
「検索で見つかる会社」は「その会社自身」ではない
例えば、ある工務店について外部AIに尋ねたとする。
AIはWebサイトや記事を参照して、こう答えるかもしれない。
「自然素材を生かした住宅が得意です」「手頃な価格で理想の住まいを提供します」「地域密着で丁寧に対応します」
一見、それらしい説明だ。
しかし、その会社の経営者は、本当は何を最も大切にしているのか。価格を抑えるために品質を削ることを、どう考えているのか。どのような依頼なら断るのか。顧客と意見が食い違ったとき、何を優先するのか。
Web上で目立つ言葉だけでは、そこまで分からない。
まして、AIが参照した情報が古かったり、第三者による紹介だったり、実態とずれた宣伝文句だったりすれば、回答は流暢でも、その会社を理解したことにはならない。
LLMOによって外部AIが自社を紹介することと、AIが自社の判断基準を理解することは、別の話なのだ。
この違いを曖昧にしたまま「企業のAIエージェントを作る」と言うことに、私は強い違和感がある。
AIエージェントには、検索結果以上のものが必要だ
企業型AIエージェントに、こんな仕事を任せたいとする。
問い合わせに回答する
顧客に合った商品を提案する
営業担当に次の行動を提案する
SNSで何を発信するか判断する
過去の顧客に適切な案内をする
これらには、商品説明だけでは足りない。
何を売るかに加えて、**なぜ売るのか。誰に届けたいのか。何は売らないのか。顧客との約束は何か。迷ったときに何を優先するのか。**そこまで分かって初めて、その企業らしい提案に近づく。
企業の哲学を知らないAIが、企業の代わりに行動すればどうなるか。
目先の成約率を上げるために、その会社が望まない強引な営業を提案するかもしれない。一般的には正しい回答でも、長年その会社が大切にしてきた顧客との関係を壊すかもしれない。
企業型AIエージェントに必要なのは、検索結果をうまく要約する能力だけではない。企業が自ら確認し、更新し、責任を持つ情報をもとに判断できることだ。
だから、私はAIOから始める
私が考えるAIO(AI Optimization)は、単なる「AI検索対策」ではない。
企業自身の情報を整理し、AIがその企業を理解し、仕事に生かせる状態を作ることだ。これは私が提唱するAIOの考え方であり、一般に使われるAIOという言葉の意味を一つに定めるものではない。
まず整理すべきものには、例えば次のような情報がある。
商品・サービスの内容、価格、変更履歴
顧客からよく寄せられる質問と実際の回答
過去の提案と、その後の顧客の反応
会社の理念、経営者の思想、判断の優先順位
使いたい表現と、使いたくない表現
提供できることと、あえて提供しないこと
大切なのは、これらをただ大量にAIへ読み込ませることではない。
どの情報を会社の正式な見解とするのか。誰が確認したのか。いつ更新したのか。誰が参照できるのか。どの仕事に利用してよいのか。
そこまで含めて設計する。
外部の検索結果に「この会社はこうらしい」と判断させる前に、会社自身が「私たちはこういう会社だ」とAIに伝えられる状態を作る。
それが、私がAIOから始める理由だ。
LLMOは出口の一つであって、土台ではない
LLMOは不要なのか。そうではない。外部AIに正しい情報を届けることは重要だ。
ただ、順番がある。
私の考えでは、まず企業自身が情報と判断基準を整理する。企業専用AIがそれを参照できるようにする。その上で、Webサイト、ブログ、SNS、FAQなどに一貫した情報を発信する。結果として、外部AIにも企業の姿が伝わりやすくなる。
つまり、私の構想では次の順番だ。
企業の思想・事実・判断基準→ 企業ナレッジ→ 企業専用AI→ Web・SNS・問い合わせ対応・LLMO→ 顧客の反応を踏まえた更新
LLMOから始めると、外部からどう見えるかを先に整えることになる。
AIOから始めると、自分たちは何者で、どう判断する企業なのかを先に定められる。
企業型AIエージェントを作るなら、この順番の違いは決定的だと思う。
「企業ナレッジ」は登録して終わりではない
企業の考え方は、固定された文章だけで表せるものではない。
商品が変わる。価格が変わる。顧客の悩みが変わる。失敗から学び、経営者の判断も変わっていく。
だからAIOは、一度情報を登録して終わる仕組みではなく、更新し続ける仕組みであるべきだ。
企業が情報を確認する。AIがその情報を使って発信や業務を支援する。顧客の反応を集める。AIが改善案を示す。そして、企業の人が判断してナレッジを更新する。
ここで重要なのは、AIに企業の哲学を勝手に変えさせないことだ。
顧客の反応や売上だけを基準にすれば、「売れる言葉」が「その企業らしい言葉」を上書きしてしまう可能性がある。AIは改善案を出せる。しかし、何を大切にする会社であり続けるかを決めるのは、企業自身だ。
AIOからAIエージェントへ育てる
私は、最初から万能なAIエージェントを作る必要はないと思っている。
最初は、確認済みの企業ナレッジを参照して問い合わせの回答案を作る。それができたら、問い合わせを分類する。次に、対応が必要な顧客を担当者へ通知する。さらに、顧客に合った資料を作り、承認後にCRMへ記録する。
一つずつ、仕事の範囲を広げればいい。
その過程で必要になるのが、情報の正確さ、権限管理、行動ルール、人による承認、実行結果の記録だ。これらは、検索での露出を高めるLLMOだけでは整わない。
企業の代わりに動くAIを作るには、まず企業自身を理解するAIを作らなければならない。
だから、AIエージェントを目指すならLLMOからではなく、AIOから始める。
中小企業にも「自社を理解するAI」を
企業ごとに、この仕組みを一から開発していては費用が大きくなる。
そこで私が構想しているのが、共通の仕組みをSaaSとして提供しながら、企業ごとの情報と判断基準を分けて持つ、マルチテナント型の「企業型SaaS AIエージェント」だ。
企業情報の検索、コンテンツ作成、各種サービスとの接続、分析、認証、権限管理などは共通化する。一方で、商品、顧客、理念、哲学、行動ルールは、その企業だけのものとして扱う。
企業がAIに合わせるのではない。AIが、その企業を理解する。
これは現時点で、私、奥村哲次個人が提唱している構想であり、所属先や関係する会社が提供中のサービスを紹介するものではない。
見つけてもらう前に、自分たちを伝えられるか
LLMOは、外部AIに見つけてもらうために役立つ。
しかし、検索で上位に現れた情報が、その企業の真実とは限らない。まして、その企業の哲学や、迷ったときの判断基準まで表しているとは限らない。
その違いを理解せずにAIエージェントを作れば、企業の名前で、企業らしくない判断をするAIが生まれてしまう。
私が目指すのは、企業の情報をそれらしく話すAIではない。
その企業が何を大切にし、何を選び、何を選ばないのかを理解した上で、企業の仕事を支えるAIだ。
見つけてもらうためのLLMOは必要だ。だが、企業のために働くAIエージェントを作るなら、出発点はAIOでなければならない。
私は、自分の仕事観や人生観、経営に対する考えを、これまでブログなどでかなり発信してきた。よかったらChatGPTなどで、**「奥村哲次の思想について教えて」**と尋ねてみてほしい。
どんな答えが返ってくるだろうか。そして、その答えは私の考えをどこまで正確に捉えているだろうか。
その結果を見ていただくことも、「外部AIに見つかること」と「本人の思想を理解すること」の違いを考える、一つのきっかけになると思う。
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